ビジネスに関わる多くの人にとって、会計の知識は避けては通れないものです。もし企業に勤めていなかったとしても、投資などを通して企業のことを知ろうと思ったなら、財務諸表などの会計情報は読めたほうがいいですよね。
これから会計の勉強をしようと思っている人にとって、まず身につけておくべきことは簿記の知識です。本屋さんに行けば初心者に向けた解説本もたくさん並んでいますよね。簿記3級や簿記2級の資格は根強い人気を保っています。
ところが独学で簿記の勉強をしようとこれらの本を読んでみても、いまいち全体像がつかめず、要するにどういうことなのかスッキリしないということがよくあります。
前回の記事では元研究者という私自身の目線を通して、イメージで簿記をとらえるための準備をしました。
⇒ これだけ覚えれば十分!独学で簿記を身につけるためのイメージ勉強法
今回はさっそくこの考え方を使って、いろいろな取り引きについて見ていきたいと思います。
資産と費用の妖しい関係
費用を使ってみよう
前回の記事では現金のやり取りが含まれる仕訳を紹介しました。複式簿記のルールでは現金が増加するときは左側に、現金が減少するときには右側に現金を書き、それぞれの反対側に現金が増減した理由を書くのでした。
例えば銀行からお金を借りて現金が増えれば、
となりますし、逆に銀行にお金を返して手持ちの現金が減れば、
となるのでした。
ところで現金が減るのは銀行の返済だけではありませんよね。そう、何か物を買えば手持ちの現金は出ていきますよね。
ということで、たとえば事務用の文房具を1万円払って買ったとしましょう。仕訳は以下のようになります。
現金は出ていきますから仕訳では現金は右側に書きますね。現金が減少した理由は事務用品を買ったためですので、左側には「事務用品費」と書いておくことにしましょう。
さてこの事務用品費ですが、これは文字通り「費用」の一部です。そして「費用」はP/Lを構成する部品でした。
このことを念頭に置いたうえで、この仕訳をバランスシートに合体させてみましょう。
こんな感じで、前回の記事の中で作ったバランスシートに合体できました。
ところでバランスシートでは左右で同じものがあれば消して良いというルールがありました。上の図をよく見てみると、左と右に現金が出てきていますね。右側の現金は1万円なので、左側の現金80万円のうち1万円分だけを消すことができます。
このことを図で示してみましょう。
右の図を整理して書き直すと、以下のようになりますね。
さてこの図をよく見てみますと、あることに気づくかと思います。それは、バランスシートの中にP/Lが入ってきているということなのです。このことを確認するためにもう一度図を見てみましょう。
お分かりのように、P/Lが紛れ込んでいることによって、バランスシートの左右が一致しなくなってしまいましたね。そうなのです!実は仕分けの中に費用や収益のようなP/Lの内容が入ってくると、バランスシートの左右が一致しなくなるのです。
このアンバランスな状態をバランスした状態にに直す作業のことを決算とよぶのですが、これはまた別の場所で見ていくことにしましょう。
土地を買ってみよう
お金の使い方はまだまだほかにもあります。次は土地を買ってみることにしましょう。
土地も現金で購入すれば手持ちのお金は減りますよね。ですので仕訳では右側に現金を書きます。
左側には現金が減少した理由を書きます。今回は土地購入ですから、土地と書きましょう。
ここまでは事務用品費と全く同じですね。
ということは土地はP/Lである費用ということになりそうですよね。
ところが土地は費用ではなく、資産なんです!!
土地が資産というのは、まあなんとなくイメージとしては妥当な気もしますよね。会社が保有していて、いざとなったら売ることもできるという意味では、資産という言葉はしっくり来ます。
でも少しひねくれて考えれば、文房具だって使わなかったら資産なような気もするし、ヤフオクで売れば現金になりますよね?
なぜ土地は資産で文房具は費用か?
それは人間がそういうふうにルールを決めたから
以上の意味はないんです。
これは理系にとっては本当に居心地の悪い話しなんですが、結局のところ会計の知識というのは、こうした人間の決めた統一性のないルールをたくさん覚えていくという作業にほかならないんですよね。。
このブログではそうしたルールを覚えるのではなく、簿記とは要するに何なのかをイメージで捉えられることを目標にします。ですので、こうした細かい取り決めは簿記検定などの資格を取るときに勉強するとして、いまは全体感をイメージすることに集中しましょう。
さて土地が資産だということになりましたので、このことを踏まえてバランスシートに合体させましょう。
P/Lが入り込んでしまっているので、もはやバランスシートと呼べないのですが、P/Lを含めれば左右が一致していますので、そのままバランスシートと呼ぶことにしましょう。
今回も左右で同じものが出てきましたね。右側の現金10万円は左側の現金と打ち消し合うことができますので、整理して以下のように書けるでしょう。
さてこの図を、土地購入前のバランスシートと見比べてみるとあることに気づくかもしれません。実際に並べてみましょう。
今回はP/Lの部分は変化なく、全体の構成もほとんど変化がありません。唯一、資産の中にあった現金の一部が、土地という資産に名前を変えているのです。
このように、仕訳によっては同じ資産の中にある項目の名前だけを変えることもあるのですね。
現金であろうと土地であろうと、どちらも会社にとっては資産に変わりありません。そしてどちらで持っていたとしても10万円という価値は同じですので、バランスシートの大きさ自体は変わらないのでした。
資産か、費用か、それが問題だ
このように取引が費用になる場合と資産になるの場合というのは、手続き的にはものすごく似てるんですね。どちらも手元から現金(資産)が出でいき、そのかわりに会社に取って何らかの価値が発生するのですから。
わたしが簿記を勉強してまず驚いたのがこの点でした。言葉の持つ意味からすると「資産」と「費用」はまったく逆の印象なのにも関わらず、その使い分けはかなり似ているのです。
実際のところ企業が起こす会計的な不祥事というのは資産か費用かという違いを悪用しているケースが非常に多いのです。つまり、利益を多く見せたければ費用を少なくすれば良く、そのために本来ならば費用であるべきところを資産として隠してしまうのですね。
逆のケースもあります。つまり、利益を多くしてしまうと税金をたくさん払わなければならないので、利益を少なく見せようとする場合があるのです。その場合は本来は資産に計上するべきところを費用扱いにしてしまい、費用をかさ増しするのですね。
先ほど述べたように、費用か資産かの判定は人間が勝手に作った大変危険な恣意的なルールの上に成り立っています。人工的なルールですからこれを守らない人間も出てくるので、そうならないように社内外からキッチリと監視する必要があるのです。
まとめ
今回は「資産」と「費用」の関係について、バランスシートと仕訳、それにP/Lを図で見ることで整理してみました。
何回も指摘するようですが、資産と費用の区別は人間が勝手に作った恣意的なルールのもとでおこなわれているんですね。これは結局のところ、利益というもの自体が非常に人工的で、あいまいな指標だということにほかならないのです。企業の業績を見るときは利益が出ているかどうかだけでなく、バランスシートやP/L全体を見渡す必要があるのですね。
この記事を読んで簿記の資格にチャレンジしてみたくなったら、勉強の仕方についても是非とも見直してみてください。簿記2級であれば独学で1ヶ月程度の短期間で合格できます!