社会人になってビジネスに少しでも関わりを持つようになったら、どんな職種の人であろうとも身につけ無くてはならない知識が3つあると言われています。その3つとはIT、英語、そして会計です。
英語やITの知識はマーケティングや営業など比較的幅広い業務と関係がありますが、会計の知識というのはどちらかというと経理や財務など専門的な部署の限られた人々向けの知識という印象が強いかもしれません。実際のところはそんなことはなくて、会社が利益をどうやって出しているのかですとか、この商品の原価はどうやって決まっているのか、といった内容はどんな職種の人でも知っておくべき知識なんですよね。そもそも企業経営というのは数値で把握されるものですから、その基礎となる会計の知識は非常に重要なのは当たり前ですね。
ところがいざ会計の勉強をしてみようとしても専門用語が多くてなかなか覚えられなかったり、結局のところ何がいいたいのか良く分からない、といった経験をしたことのある方も多いのではないでしょうか?
そういう私自身、初めて簿記の教科書を読んだ時はひとつひとつの説明は理解できるのに、全体としては何がいいたいのかがピンと来ませんでした。なぜ、簿記の教科書を読んでも理解が進まないのか。その理由は、教科書ではとにかく全てを言葉で説明しようとしているからなんです。
私はもともと理系の研究者でした。私に限らず理系の人というのは言葉で説明されるよりも、図などを使ってイメージで記憶するほうが理解がしやすいんですよね。
会計や簿記というのは元をたどればどうやって数字を扱うかといった話しですから、図を使ったイメージで勉強するやり方と相性はいいはずなんです。ところがどの教科書を見てもそのような説明の仕方をしているものはありません。そこで今回はこれから簿記を勉強しようと思っている人に向けて、全体像を捉えやすくするイメージについて説明してみたいと思います。この説明を聞いてから簿記の教科書を読めば、きっとスムースに理解できるはずですよ!
目次
会社の成績表
みなさんは学校で成績表をもらいましたよね?テストの結果をもとにして、学年で何番だったかとか10点中何点だったか、みたいな評価を受けたことと思います。実は会社も全く同じで、ある期間でどのくらい儲けたのかといった企業の成績を出すことになっています。まずはその中でも特に重要な、P/L(ピーエル)とバランスシートの2つについて見てみることにしましょう。
P/Lとはなんだ?
まず始めにP/Lについて見てみましょう。これはカタカナでピーエルと発音します。ちなみに日本語では損益計算書といい、英語ではProfit and Lossとなります。英語の頭文字をとってP/Lと呼ぶんですね。
下の図を見てください。これがP/Lの基本構造です。
どうでしょうか?収益と費用があって、その引き算が利益ということを意味しています。これはすごく分かりやすいですよね?普通の人がイメージする企業の成績表というとこれになるのではないでしょうか。
収益にはいろいろな種類があって、たとえば「売上」ですとか「利息収入」とかは全て収益です。こういうものをひっくるめて「収益」と呼ぶんですね。
費用も同じで、たとえば「人件費」とか「光熱費」とかいったものをまとめて「費用」と呼びます。あとは商品の原価である「売上原価」も費用ですね。
P/Lでは収益と費用を一括して書くのではなくて、それぞれに含まれる内訳を細かく記載することになっています。でも最終的なゴールは収益と費用の差をだすことであって、こうやって企業の「儲け」である利益を計算するのがP/Lの目的なんですね。
バランスシートとは?
P/Lを見れば企業がどのくらい儲けたのかが分かりますから、会社の成績表としてはP/Lだけで十分なような気もします。ところが成績表にはもう一つ重要なものがあります。以下の図を見てください。
これがバランスシートと呼ばれるもので、P/Lと並んで企業が作る極めて重要な表になります。とはいっても、初めて見る人にとっては何がなんだかさっぱり、って感じですよね。
この図は左右に分けて考えます。左側にあるのが「資産」と呼ばれる項目で、一方で右側には「負債」と「純資産」という項目がならんでいます。それでこれが重要なんですが、バランスシートは左と右にある箱の高さ(=金額)が必ず同じになるようにします。左右が一致することを英語ではバランスするというので、この図のことをバランスシートというんですね。
複式簿記を理解しよう
左右という考え方
ここで左右という言葉が出てきました。これは会計や簿記ではとっても大事な考え方なので少しだけ解説しましょう。
私たちはお小遣い帳だとか家計簿をつけるときに、現金がいくら入ってきたか、あるいはいくら出て行ったかを記録しますよね。企業も全く同じで、現金が出たり入ったりするときに帳簿を付けます。
ところで企業が現金を受け取るパターンというのはいくつかあるのですが、いま銀行からお金を借りるケースを考えましょう。銀行からお金を借りればいつかは返さなくてはいけませんね。このように、いつかは返さなくてはならないものを負債と呼びます。
もう一つ、企業がお金を手にする方法があります。それが出資者からお金を調達する場合です。このようなお金のことを資本金と呼びます。そして驚くべきことに、この資本金は企業のものになり、出資者に返す義務はないんですねー。そのかわり出資者は配当金といって企業の儲けを少しもらう権利を得ます。ちなみに資本金はバランスシートに出てきた純資産の一部になります。
で何が言いたいかというと、同じお金をもらうにしても、あるお金については返す義務があり、あるお金については返す義務がない、ということが起こりうるのです。
そうしたときに、ただ単に現金が増えた、とだけ書くと混乱してしまいますよね?それでは混乱を避けるにはどうしたらいいか。簡単ですよね。現金が増えた理由を添えて書いておけば良いのです。
たとえば銀行からお金を借りて現金を増やした場合はこう書きましょう。ちなみに銀行から借りることを借入金と表現します。
こういう書き方を仕訳と呼びます。
出資者から現金をもらった場合は、このようになります。
こうすれば、同じように現金が増えた場合でも、なんで増えたのかの原因が分かりやすいですね?
このように何かの取引をしたときに、その原因となる理由を添えて書くこのやり方を、「複式簿記」といいます。
バランスシートと複式簿記
さて、さきほど紹介したバランスシートを思い出してください。左側と右側にそれぞれ項目がありましたね。複式簿記の仕訳でも左と右に分けて項目を記載しました。
実は仕訳というのはさきほどのバランスシートの超小型版なんですね。このことを図を用いて説明してみましょう。
銀行からお金を借りる仕訳はこのように書けました。
これを図を用いて書くとこうなります。
同様に、出資者から現金を受け取る場合の仕訳とイメージ図は以下のようになります。
バランスシートというのは、このような小さな仕訳が積み重なっていってできるものだと(まずは)理解しましょう。
そうすると、いま仕訳は2個ありますのでこれを積み重ねてみます。
こうすると、一番最初に見せたバランスシートと同じ図になりましたね!
ちなみにこの図で書かれているバランスシートの高さというのはそこに含まれる金額の大きさと同じです。つまり、
というふうにイメージすることができるのです。
バランスシートはテトリス?!
借金を返してみよう
こうして銀行と出資者から現金を受け取ることによってバランスシートが完成しました。それでは次に銀行にお金を返す場合を考えてみましょう。(借りたばかりなのにすぐ返すなんてなんだか変ですけど、今は練習ということで(^_^;))
現金を20万円返すこととして、どのような仕訳を書けばいいでしょうか?
ここで仕分けのルールで非常に重要なことを紹介します。
現金が減少する場合は、仕訳の右側に書く
現金が減少する理由は借入金の返済ですので、やはり添字として借入金と書くのが複式簿記のルールでした。今回は現金は右側に書くことになるので、借入金は左側に書くことになります。
銀行から借りた時とは、ちょうど左右が逆の仕訳が書けました。
仕訳をバランスシートに乗せてみる
さて新しい仕訳が書けたので、さきほどのバランスシートと合体させてみましょう。こんな風になると思います。
ここでバランスシートの図のルールを紹介しましょう。バランスシートでは各項目を自由に上下に動かして良いというルールがあります。(ちなみに左右に動かすのはダメです!)
そうすると、こんな風に書くことができます。
バランスシートのもう一つのルール、それは左右で同じものがあれば消して良い、というルールです。揃うと消えるなんてテトリスみたいですよね?
図で書くとこうなります。
このようにしてバランスシートがすっきりしました。この図をよく見てください。現金は80万円に減ってますよね。銀行にお金を返したのですからそうなるのは当たり前です。一方で借入金も60万円に減りました。これは借金が減ったことを意味しています。
実は会計というのは、このような操作を何度も何度も繰り返していってバランスシートをどんどん更新していく作業なのです。
P/Lも左右に書いてみよう
今まで仕訳には左と右があって、それが集まったものがバランスシートになるという説明をしてきました。
ところで一番最初に説明したP/Lは上下に書きましたよね。実はP/Lも左右に書くことができます。図で書くとこんな感じになります。
この図の場合、右側と左側の高さの差が利益に相当します。
バランスシートでは左右が同じになりましたが、P/Lでは左右が一致しないんですね〜。まあ、収益と費用がピッタリと同じになることなんてないので当たり前といえば当たり前なんですが、このことは結構重要なので頭に入れておいてください。
まとめ
今回は企業にとっての成績表であるP/Lとバランスシートについて解説しました。その際、複式簿記で出てくる仕訳をボックスでイメージし、それらのボックスの集まりがバランスシートを構成するのだと説明しました。
実ははこのように考えることで、これから見ていく様々な取り引きや決算についてもすべてイメージで理解できるのですが、それは別の記事でご紹介することにしましょう。
この記事を読んで会計に興味が出できたら是非とも簿記2級を受けてみてください。その際、効果的に勉強するための勉強フレームワークを身につけておけば短期間で試験に合格できるでしょう。
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